貧乏くじ女の180日
彼女は憧れ続けた「紫色のイス」に座りながら、自分の心臓の音がどんどんはやくなってくるのを感じていた。
最終課題の講演を、仲間がひとりずつしている。持ち時間は30分。昨年9月から半年間、この講演のために準備してきたのだ。
みんなの顔もちょっと緊張している。それでもこの時間は精一杯の話をしようと、全力で取り組んできたことが伝わってくる。
エヴァとの出会い
どきん。どきん。
彼女は藤村正宏先生が主宰している、エクスペリエンスマーケティングというひと言でいえば集客の勉強をしている。
そして、このときは2016年9月から始まったエクスマエヴァンジェリストコース(略してエヴァ)には、日本各地から16人のメンバーが参加していた。
エヴァはエクスマ塾の上位のコースだから、塾を卒業しないと参加できない。その塾を卒業するときは、エヴァは自分には関係ないことと思っていた。
本州に毎月行くのは大変だし、仕事もあるし。お金もかかるし。すごい人はいっぱいいるし。言い訳はいくらでもあった。
それでも一度きりの人生なら、自分は何をしたいのか考えてみた。エクスマに浸るっていいんじゃない。これがやりたいんじゃないって思った。そうしたら、どうしても参加してみたくなって、自分で交渉してコースに入れてもらったのだ。参加できると知ったときは、本当に飛び上がるほどうれしかった。
苦悩する日々
どきん。どきん。
発表の順番は近づいてくる。
このコースは表現力、伝えるチカラを養うコースで、最終ゴールのひとつは藤村正宏先生と一緒に講演すること。
聴衆はエクスマセミナーに初めて来てくれる人たち。エクスマや藤村先生に興味をもって、知りたいと思ってきてくれる人に、自分がどんな想いをしていて、エクスマをどう実践して、何を感じ取ってほしいのか、それを話すことが課題である。講演のシナリオが完成しない。自分の言葉がみつからない。自宅でパソコンを前に焦ることは何度もあった。
やっと作りあげて、エヴァで講師陣や仲間の前で発表しては
「それじゃ伝わらない。」
「自分の物語になっていて、エクスマではない。」
などなどフィードバックをもらい、またスライドを直す。
その繰り返し。最終日のスライドは、最初のものとまったく違っている。
最大の敵は自分の感情
どきん、どきん。
逃げ出しちゃいたいな。ふっとそんな想いが湧いてくる。
「いいの。ここで失敗しても。また、がんばればいいから」
あっ、悪い癖も始まった。
彼女の順番は16人中の14番目。まだ始まってもいないのに、失敗する前提で考えている。それはもうやめるんだった。
本番で全力でやってみなければ、結果はわからないじゃないか。負け癖はいつから始まったんだろう。それは遠い昔のことのように思う。
北海道の小さな田舎町に生まれた彼女は、田舎特有の「負け感」に囲まれて育ってきた。もしかしたらリゾート地になって、有名になっていたかもしれない街。父親は役場の職員で、企業の誘致活動をしていた。彼は東京に出張しては、自分の街の売り込みに必死だった。そうすれば人が来て、街が潤うから。でも、それは思わぬ事件で失敗に終わり、街の過疎化は進んでいった。何ともいえないむなしい気持ち。街は見捨てられてしまうのか。そんな空気を子どもも感じていた。そして、私達が生きているところって、都会よりも劣っているのかな。。。知らず知らずのうちに、身に着けてしまった価値観である。
実際、社会にはそんな風潮がある。格差は事実としてある。人間もランク付けされることもある。人の好みもある。事実は事実。そのことに嘆いても仕方がない。ほかの価値観に巻き込まれてしまったら、自分はいつでも「下」にいる人間と、自分で人生のシナリオをそうしてしまう。
自分が見える環境は、すべてが自分で作りだしていること。他人の価値観は関係ない。だったら、自分が主人公のシナリオを演じようよ。やっと気づいてきたところだったのに、あまりの緊張ですべてがふっとんで古い古い価値観がよみがえってきた6か月だった。
彼女は自分の持つ生きにくい感情を捨て去り、よい状態にするメンタルトレーニングを何度もしてみた。ある意味、講演のスライド作りも、話し方の練習もそんなものはどうでもいい。それは回数を重ねればよいことだから。メンタルさえ整っていれば、練習もできるし、自分にとってよい結果がでるのだ。それはよく知っている。邪魔するものは、自分自身の感情だけ。以前は、そんなトレーニングをしなきゃならない自分を恨んだものだが、いいじゃんそれが自分なんだからと思えるようになっていた。私はそんなことにとらわれる必要はない。前を見よう。楽しいことしよう。わくわくしよう。何度も自分に言い聞かせた。
いまが想いを叶えるとき
どきん。どきん。
彼女はいま紫色のイスに座って、自分の順番を待っている。紫色のイスは、会場である伊豆長岡温泉「陶芸の宿 はなぶさ」の部屋に置いてあるイスのことで、過去何度も、Facebookでここで行われていたエヴァの写真を何度も見ていて、「いつか私もここに座りたいな」と思っていたのだ。いま座っている。それだけでも、すごいことじゃん。田舎育ちで、引っ込み思案で、人と口も聞けなかった子どもだったのに、自分がやってみたいと思って飛び込んで、講演しようとしているんだ。
「スライドを見るだけじゃだめ、しゃべることだよ」
「練習、練習」
こうアドバイスをしてくれた先輩がいて、予行練習してきた。あまり時間がとれないので、スライドをイメージで覚えて、お風呂の中で話してみたり、夜中に帰宅しながらぶつぶつ話したこともある。大丈夫。練習したもん。
大丈夫。大好きな言葉だ。自然とつぶやけようになったとき、彼女は心が静かになってきたことに気づいた。
やり切ったときに手に入るもの
大丈夫。練習したもん。きっと大丈夫。
本番前に何度かつぶやいて、人前に立った。不思議と落ち着いていた。あとは全力で話すだけ。
こうして彼女は最終課題に臨み、自分の中でやりきったという充実感がある。
「やれたんだなぁ」
いろんな想いがあったけれど、全部吹っ飛んで満足感だけが残る。
それでいい。
彼女は猪突猛進で会社の危機を突破したのはいいけれど、自分が病気になってしまう貧乏くじ女。
その彼女が好きなことをしようと、エヴァに行ってみた。そこからの180日は、とても貴重な時間だったと感じている。
仲間、愛情、挑戦、調和、逸脱とたくさんのものを得たのだから。
こんな素敵な写真を作ってくれたタクミ(花井さん)。ありがとうございます!
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白藤沙織
Web・印刷の株式会社正文舎取締役。 Webプロデューサー 兼 ライター。ときどきセミナー講師。 コーチやカウンセラーの資格を持ち、仕事に活かしています。 ダンス・歌・演劇好き。4コマ漫画のサザエさんをこよなく愛しています。
営業をどのようにしたらよいかわからないときに、Webサイトとブログ、SNSに出会う。以来、情報発信を丁寧にして未来のお客様と出会ったり、お客様のフォローをしています。
仕事もプライベートも「自分の生きたい人生を生きる」ために、「自信や勇気」を届けられたらうれしいです。