見覚えのある空間
大勢で集まるところは苦手で、極力そういう場に行かずに済むように生きてきた。特に人が嫌いなわけでもない。大好きな友たちと遊ぶし、知らない人ともすぐに仲良くなれる。人懐こいとさえ言われる。
けれども、人がたくさんいる場所で自分はとくに話すこともなくただ座っているだけなのに、あちこちで親しげな話し声が聞こえてくると、消えてなくなりたくなるのだ。
周りの人たちと私の間には、透明なビニールの幕が降りていて、私は幕の外でみんなの姿を見ているのだ。その私は捨てられて傷ついた子猫みたいに、自分の身を守るために隅にいて、じっと人の動きを見ている。
そういう気分を味わいたくなくて、大勢を避けていた。
だけれど、ときどき大胆な行動をするのも私の特徴らしい。
あのときは、どうしても行ってみたいセミナーがあって、ひとりで行こうと決めたのだった。セミナーの内容に惹かれたこともあるけれど、セミナーが開かれる場所に行ってみたかったのだ。
そこはSNSでよく見かける場所で、さび加工のこだわりのあるロゴの看板が掲げられて、薄い茶色の入り口のドアが印象的なのだ。
当日は胸が身体から飛び出しそうになるくらいドキドキしなから会場に向かった。私、大丈夫かな。。。
そして、戸を開けて中に入ったとき、「うぁー、すごいな」って心の中で叫んでいた。足が自然に前に出て、本がずらっと並んでいる棚に吸い寄せられていった。

図書館みたい。
赤、白、黄色、青、黒。いろんな色の本が並んでいた。
本は私の大切な友達だった。たくさんの子たちと遊んでいても、私は本に気を取られると、途中で遊びから脱落してひとり本を読んでいることもあった。みんなの声は遠くなり、自分の内側の声が聞けた。それでも楽しかった。それでも私はみんなと遊んでいる感じもしていたのだ。
そんな記憶がよみがえる。
いつの間にか私はひとりだの、孤独になるなど、そんなことはどうでもよくなって、目はきょろきょろと動き、いろんな本を手に取りぱらぱらと中を見ていた。どんな本があるのかな。
気がついたら、セミナー開始の時間になっていた。
私は席につき、その場の雰囲気に溶け込んだ。
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この記事の投稿者
白藤沙織
ただいま演劇に夢中。そして、ダンスとヨガとピアノが好き。4コマ漫画のサザエさんをこよなく愛するWebプロデューサー「さおりん」です。
考えをはっきり言うズバリスト。その性格を生かして、Webのこと、生き方のこと、本のことなどなど、ずばり言います。
小さな会社の経営者と、アラフィフ女子がキラキラと輝くためのお手伝いがしたい。そんな思いで日々活動中です。
プライベートでは、ひとり娘のシングルマザー。仕事と子育てとめいっぱいがんばってきたので、人生のパートナーができるといいなぁと密かに夢見ています
上級ウェブ解析士、エクスマ59期・65期、エヴァ16期