初心忘れるべからず ~ 清水義範さんの小説からの学び
「URLが変わったなら、すべてをリダイレクトすると、検索エンジンでもリンク切れにならないのになぁ。」
と、先日とあるところで思わずつぶやいてしまったのですが、相手にはちゃんと伝わりませんでした。とっさのことだったので、Web屋としての素で話してましたから。
私のつぶやきを聞いて、何をするべきか具体的な行動をイメージできるのは、たぶんWeb屋さんだけでしょうね。
WebやITのことはさっぱりわからないって要因のひとつに、肝心のことが専門用語のまま解説なしで使われていることがあると思います。しかも、その専門用語が英語であるから、なおのことわかりにくいんですね。
IT・Web業界で働いてもう30年。「わからない」と言われ続けているけれど、なかなか状況は変わらないなぁ。そして、私も30年近く同じ失敗をくり返しているのか。いえ、わかりやすさって何かはずっと考えてきて、がんばっているではないかといろいろ考えてしまいました。
それと同時に思い出したのは、作家の清水義範さんのことです。
清水義範さんは、有名な作家の文体や特徴的に話す有名人の口調を真似て書く「パスティーシュ」という技法で小説を書いて居る方です。小説は面白く、公共の乗り物の中で読んでは危険です!
その清水義範さんをなぜ思い出したのか。それは私の仕事に関係あるからです。
マニュアルを書く意識が変わった
私が清水義範さんを知ったのは、20代前半でソフトウエアのマニュアルを書いていた頃です。
理解しづらい取扱説明書(マニュアル)を皮肉った、「取扱説明書」という短編小説が、当時あったマニュアルライターの専門雑誌で紹介されていたんです。
「取扱説明書」は「秘湯中の秘湯」という本の中に収録されており、本物の取扱説明書の形式でユーモラスに書かれている話です。
マニュアル・ライターという仕事がある。
これは、新製品が出るとそれを徹底的に使いこなしてみて、こんなこともできる、こうやればこれもできるのか、などということを調べ、使い方についての文章を書くという新しい職業である。「秘湯中の秘湯」(新潮文庫)「取扱説明書」p.110
私はこのマニュアル・ライターになって2年目に、この話を読みました。
マニュアル・ライターという人種は「シミュレートすれする前に、コボルでアウトすれば、ランダム操作できるわけだよな」とか思考していて、こんな人間が素人に説明文を書くのだから、大胆不敵なことであると書かれています。
また、「電源を入れる」とか「スイッチを入れる」などの説明は、毎回必ず出てきてやたら詳しいけれども、肝心の操作は、たとえば「登録したイメージを複写し、新画面にシミュレートします」で済ましてしまうというのです。ユーザーはその操作が知りたいのに。。。
最初は読んであまり気持ちがよくありませんでした。だって、こっちだって必死に書いているのになぁと。
でも、自分の書くマニュアルもこんな感じになってるよなぁと反省したのです。
それからは、「スイッチ → スイッチです」なんて解説を書かないように、どうやったらユーザが操作手順を理解しやすくなるのか、私なりに工夫するようになりました。いい気づきだったと思います。
当時はまだパソコンも特別な分野で使われている機械で、マニュアルを読みながら操作を覚えていくものでした。パソコンにもソフトウェアにも、マニュアルが必ず入っていて、マニュアルの仕事はなくならないと思っていました。
パソコン自体がユーザーの直感でわかるようにというコンセプトで開発されるようになり、ソフトウェアはほとんどMicrosoft製品で揃えられるようになると、マニュアルは必要なくなりました。
時の流れの必然なんでしょうね。
Web屋としては、極力日本語で物事を説明できるようになりたいと思った次第。お客さんに「わかる」って言ってもらえるようなマニュアルを作りたいって頑張っていた頃を忘れないようにします。
さおりんお勧めの1冊
私のお気に入りは、「12皿の特別料理」という料理にまつわる12の短編小説が入った本です。
おにぎり、きんぴらごぼう、カレー、八宝菜などなど、ひとつの料理をめぐって展開する日常生活が描かれていて、おもしろいです。作り方がリアルに思い浮かぶことができ、私はきんぴらごぼうやタラモサラダの作り方を覚えました。
カンタンに読めるので、ぜひ読んでみてねーーー
コメント
この記事の投稿者
白藤沙織
Web・印刷の株式会社正文舎取締役。 Webプロデューサー 兼 ライター。ときどきセミナー講師。 コーチやカウンセラーの資格を持ち、仕事に活かしています。 ダンス・歌・演劇好き。4コマ漫画のサザエさんをこよなく愛しています。
営業をどのようにしたらよいかわからないときに、Webサイトとブログ、SNSに出会う。以来、情報発信を丁寧にして未来のお客様と出会ったり、お客様のフォローをしています。
仕事もプライベートも「自分の生きたい人生を生きる」ために、「自信や勇気」を届けられたらうれしいです。